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2017年8月24日 (木)

■イタリアの巨匠たちの作品には喚起的な映像があふれている

今週も夏休みで「映画と夜と音楽と----」は休載します。
以下は、八年ほど前、ある写真雑誌の依頼で書いたものです。

■イタリアの巨匠たちの作品には
 いつ見ても写真が撮りたくなる喚起的な映像があふれている

閃光がスクリーンを裂く。フラッシュの発光音、チャージする音が続く。絶え間なく響くのはシャッター音だ。フィルムを巻き上げるモータードライブの音が間を埋める。美しい女がスタジオの床に横たわり、身悶えするように蠢く。女に馬乗りになりカメラを構えた男は、ファインダーから目を離さずシャッターを押し続ける。

まるで狂った二匹の獣が絡み合うような、激しいスタジオ撮影を終えた若き写真家は、一変して静かな男になり小型カメラを抱えて街に出る。彼は公園で抱き合うカップルを撮影し暗室でプリントすると、男女の背後の茂みに死体のようなモノが写っているのに気付く…。彼は、その部分をどんどんブローアップしていく。

それは、鮮烈な視覚体験だった。ロンドンがファッションの発信源だった頃の映画。一九六七年七月、その映画を見た少年はひと夏をアルバイトでつぶし、念願の一眼レフを手に入れた。モータードライブが装着できるキヤノンF1には手が届かず、FTbと刻印されたカメラで満足するしかなかったけれど…。

映画「欲望」(原題は「ブローアップ」)を見て写真家になった人を、少なくとも三人は知っている。それほど、冒頭の撮影シーンは強いインパクトを観客に与えた。さらに暗室作業を魅力的に描いたミケランジェロ・アントニオーニの名は、写真界に多大な貢献をした人間として記憶されるべきだろう。

その十数年後、日本の広告写真やファッション写真に影響を与えたのは、ルキノ・ヴィスコンティ監督だった。ヨーロッパの王侯貴族の物語「ルードウィッヒ 神々の黄昏」は、イタリア貴族の生まれだったヴィスコンティにしか描けない絢爛たる絵巻だった。

イタリアには、もうひとりの巨匠がいた。フェデリコ・フェリーニ…。後年の奔放な映像を作り出す才能は、空を飛ぶキリスト像から始まる「甘い生活」ですでに花開いていた。モノクローム時代のフェリーニの映像は喚起的だ。

彼らより世代は若いが、イタリア出身にはベルナルド・ベルトルッチ監督もいる。撮影監督ビットリオ・ストラーロのゾクゾクするような映像が素晴らしい「暗殺の森」一本だけでも、彼の名は世界の映画史に残るだろう。まだ現役のベルトルッチは、更なる傑作を生み出すかもしれない。

■ミケランジェロ・アントニオーニ作品
「欲望」(1966年)
アントニオー二の世界では、すべてのことが不確かだ。主人公の写真家は、「存在するもの」に確信が持てなくなり、自らに問う。「写っているものは、本当に存在しているのか?」

「太陽はひとりぼっち」(1962年)
愛は不毛だ、とアントニオー二は言う。愛は失われ、新たな愛が生まれかかるが、再び失われる。ラストシーンの無人のカットが、心の中の何かを掻き立てる。「日蝕」というタイトルが喚起的だ。

■ルキノ・ヴィスコンティ作品
「ルードウィッヒ 神々の黄昏」(1972年)
城の佇まい、登場人物たちの背景を彩る館の装飾、家具のひとつひとつ、衣装デザインの見事さ、馬車や器などの大道具小道具など、すべてが完璧な美術品のような映画だった。

「熊座の淡き星影」(1965年)
他にも代表作はあるのだが、この作品には強く惹かれる。タイトルも好きだ。モノクロームで描かれる夜のシーンの陰影の深さは、若きクラウディア・カルディナーレをさらに美しく見せる。

■フェデリコ・フェリーニ監督作品
「甘い生活」(1959年)
冒頭、キリスト像を吊り下げたヘリがローマの上空を飛び、ハリウッドのグラマー女優はドレス姿で噴水に入る。モノクロームの世界は、イメージを膨らませてくれるものがある。

「8 1/2」(1963年)
最近、ハリウッドでミュージカル「NINE」としてリメイクされたが、オリジナルはカーニバルのような映画だ。主人公の映画監督はフェリーニ自身か。目がくらむような映像が続く。

■ベルナルド・ベルトルッチ監督作品
「暗殺の森」(1970年)
名手ビットリオ・ストラーロは、ダンスホールで見事な照明のワザを見せ、白い雪の積もる暗い森の中で真っ赤な血を描き出す。ドミニク・サンダの美しさは、ストラーロによって永遠に刻み込まれた。

「シェルタリング・スカイ」(1990年)
なぜか、この映画のジョン・マルコヴィッチとデブラ・ウィンガーが好きだ。アフリカの砂漠の映像が美しく、登場人物たちと共に彷徨したくなる危険な映画。愛もさまようしかないのか。

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